今回は、前回の問題の解答について考えていきたいと思います。
 
まずは、関係図で問題内容の確認をしておきましょう。

 平成3年7月宅地売り渡し→
A←==========→Y 平成5年6月2号仮登記了
|  ←平成4年5月代金支払い  
|            

|平成8年2月にAがBに本件宅地を売り渡す




|平成8年4月にBがXに本件宅地を売り渡す


 (注)
 所有権保全仮登記とは、所有権移転登記(本登記)をしたいのだけれども、何らかの理由により、手続要件等が整わないために、要件が整うまでに仮にしておく仮登記であり、1号仮登記と呼ばれる場合もあります。

 所有権移転請求権保全の仮登記とは、AがYより金を借りて、弁済期限内に当該債務の弁済ができなかった場合に、代金支払に代えて土地の所有権をYに移すという契約(停止条件付代物弁済契約)をした場合に、Yの停止条件付所有権移転請求権を保全し、第三者に対抗するために行われる登記であり、2号仮登記と呼ばれる場合があります。

 停止条件付代物弁済契約は事実上の担保権設定契約と見ることもでき、当該契約及び仮登記を用いて債権を担保することを「仮登記担保」ともいい、仮登記担保のあり方については、仮登記担保法によって規律されています。

 (注終わり)

 本来Yは、本件宅地を買って所有者となっているわけですから、仮登記ではなく、所有権移転登記(本登記)をすべきでした。

 しかし、本登記の要件が何らかの理由により整わないため、しかたなく、とりあえず1号仮登記で権利保全をしようと思い、

Aに手続をするための書類等を用意するよう頼んだところ、 Aは、2号仮登記(仮登記担保)用の書類を用意し、

その上で登記手続の依頼を受けた司法書士が2号仮登記をしてしまったということですね。

 登記手続きに疎いと思われるYは、当該仮登記が1号仮登記だと信じて押印をしてしまったということになっており、

またその後、Aが本件宅地をBに売り、BからXに転売され、Xが所有権移転登記(本登記)をしたというのが、本問の事実関係となっています。

 まず、この問題の考え方ですが、最判昭36.6.7は、

「A所有の不動産につき、Yのため所有権移転請求権保全の仮登記がなされた後に、Aが当該不動産をB(ないしX)に譲渡し移転登記をした場合に、Yは、B(ないしX)の登記を抹消することなくして、Aに対し所有権移転登記を請求することができる。

 AがYに対する債務の担保として不動産の所有権をYに譲渡した場合に、 Yのために所有権移転請求権保全の仮登記がなされたとしても、その登記は順位保全の効力を有すると解すべきである。」

 と判示し、実質上、2号仮登記をもって1号仮登記があったものとしております。

 よって、対抗問題という観点からのみ考えると、本登記をしたXに先んじて、2号仮登記をしたYの方に優先順位があり、YはXに対抗できるということになります。

  しかし、権利外観法理の観点から考えるとたとえ、対抗問題としては上記のとおりであったとしても、

 (1)虚偽の外観が存在し、


 (2)Y(真の所有者)に帰責があり、


 (3)その外観に対するX(第三者)の信頼があれば、

 民法94条2項が類推され、YはXに当該不動産の所有権を主張できないというのが、メルマガで勉強してきた内容でした。

 ただ、真の所有者本人(今回の問題の事例においてはY)の帰責性が低い場合には、

Y側の保護(静的安全の保護)を厚くし、X(第三者)が保護(動的安全の保護)されるためには、

民法94条2項で要求される要件である第三者の善意だけではなく、それに加えて、「無過失」も要求されます。

  本問における虚偽の外観は、Yが意図的に作り出したものではなく、また事後承認したわけでもなく、Yの過失によるものであり、その帰責性は少ないと考えられます。

  となると、上述のとおり、Xが保護されるためには、当該外観に対するXの「善意無過失」が必要となります。

 善意だけでは不十分ということですね。

 選択肢1は、「Yが本件登記が所有権を保全するためのものであると信じたことに過失があり、かつXが「善意」であるというような事情がある場合」は、「Xが保護される」がごとくの記述になっていますが、これは上記理由より、妥当とはいえないということになります。      

 繰り返しになりますが、本事例におけるXが保護されるためには、「善意」だけではなく、「無過失」も必要とされるからです。

 選択肢2については、「本件仮登記は実体上の権利を反映しない無効な登記であり」とありますが、本件仮登記自体は無効ではなく、有効な登記です。

 この点から選択肢2についても、妥当ではないということになります。

 仮登記は有効ですから対抗問題だけを捉えれば、YはXに対抗できるのですが、

Y側の過失により、外観を作り出した帰責性がYにあるため、Xが「善意無過失」であるならば、YはXに対し所有者であることを主張することができないというお話なわけです。

 選択肢3については、前回もお断りしましたように、前半部分は正しいのですが、後半の「Xの善意悪意にかかわらず、Xは、本件仮登記の抹消を請求することができる」という部分が妥当ではありません。

  Xが「善意無過失」でなければ、本件仮登記抹消をYに対して、請求することはできず、例えば悪意(のみならず善意のみでも)では当然ながら、XはYに対抗できません。

 にもかかわらず、「Xの善意悪意にかかわらず」とあるので不適切と考えられます。      

 選択肢5についても、選択肢3と同様、「Xの善意悪意にかかわらず、…本件仮登記の抹消を請求することができる」とありますので、上記理由と同理由から、妥当ではないということになります。

 選択肢4は、ここまでの説明と合致しており、よって最も妥当な記述となり、これが本問の正解となります。

  以上のような論理過程に基づいて正解に至った方は、民法に自信を持っていただいてもよいものと思われます。      

 身についてきた実力に満足を感じ、喜びで心を充満させていただければと思います。\(~o~)/

 本問題はまさに法的思考様式に基づく思考力を問う問題であり、判例の結論だけを意味もわからずに、無味乾燥的に憶えているだけでは到底太刀打ちできない問題です。

 しかし、論理過程を頭にしっかりと叩き込んでいると逆にパズルでもしているかのごとく楽しみながら、面白いように解ける問題でもあります。

 「法的思考力を問う」とはまさにこういうことであり、今後の行政書士試験合格のためには、そのような能力がどうしても必要とされるわけです。

 

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